場面1:訪問マナーができない学生への指導

学生との世代間のギャップを感じていませんか

 学生に指導をするときに「世代間のギャップ」を感じていませんか?
でもじつは意外とだれしもが「いまの若者は」と言われたり、一生懸命に頑張っているのに…と悔しい思いをした経験があるかもしれません。そういう意味では世代間のギャップはいつの時代も課題なのではないでしょうか。

若者の生活体験とコミュニケーションの傾向

 看護師は教育機関で専門的知識を学び、国家試験に合格したうえでそれぞれの職場に従事します。ここ最近までは新人看護師であっても、家庭や社会での学びから身についてきたことをベースとして職場の人間関係を構築し、仕事をおぼえ成長を遂げてきたように思います。しかし近ごろの社会環境の変化によりこれらのことは当たり前ではなくなってきたようです(箕浦とき子・高橋恵)。原因は特定できませんが、子どものいる世帯の7割以上が核家族で、両親とも働く家庭も7割を超えていること(厚生労働省:2019年国民基礎調査 児童のいる世帯の特徴、地域から孤立している人は2割を占めること、また進学により親元を離れて生活する学生が多いことなどもあいまって、家庭や地域からの学びは以前よりも少なくなっていることも要因の一つではないかと推察されます。

 また最近はパソコンやスマートフォン、SNSの普及により直接人と関わらなくても情報が得られます。これまで直接顔を合わせる、電話をかけるなどしていたコミュニケーションは片手に載せたスマートフォンでいとも簡単に実現できます。ちなみに固定電話の保有率は6割程度に減少し(総務省:2018 情報通信機器の保有状況個々のスマートフォンに電話をかけあうため、若い世代は固定電話に出たり、取次ぐという体験さえも減少傾向にあるのです。このように生活が便利になった一方で、生活体験は変化している現状があり、訪問看護の皆様も思い当たることもあるのではないかと推察します。

学生と利用者の「世代の間」の立場で橋渡しをしてみましょう

 このように著しく変化する社会環境のなかで育った学生たちですが、他者とのあたたかいふれあいにより瞳をきらきら輝かせ、真摯に努力する真面目な姿も多くみられます。しかしまたその反面「自分は全然できない」と思うなど自己肯定感が低かったり、自分はここでやっていけるのか、などいつも不安がりながら自分探しをしている状況にあるのが「いまどきの」若者の姿かもしれません。経済産業省はこのような若者の社会人基礎力の強化・育成を打ち出しており、これらを参考にすることで育成していくことも可能になるのではないでしょうか。

 このような理由から、学生との世代間のギャップを感じるのは当然のことではないかと思います。訪問看護師のみなさまが、学生との世代の違いを大前提として受け止め、さらに世代の違う高齢者の生きてきた時代背景(厚生労働省2011やひとりひとりの人生観や生活の営みを理解し伝えることが、学生が在宅看護に関心を寄せるためのなによりの支援になるのではないかと考えます。

なぜ訪問マナーが必要なのか?

 このような時代背景と環境で生まれ育った学生が、訪問看護実習で最初に直面する訪問時のマナーについてどのように関わればよいでしょう。

来訪者として看護をする

 マナーはよりよい人間関係を築くうえで、相手を不快にさせず、好感を持ってもらうための気遣いとして重要です。在宅看護の実習の場では、訪問看護師や学生は来訪者です。したがって、「他者のご自宅にお邪魔する」という姿勢が不可欠ですが、学生には他者の家に訪問するという経験が少ないため、居宅での立ち振る舞いは大きな課題といえます。

 また自宅にお邪魔する訪問者として、髪色・爪・化粧・服装などには配慮が必要です。学生も各教育機関の指導のもと身だしなみを整えていると思うのですが、対象である利用者・家族は、学生とは異なる時代を生きてきた人生の大先輩であることを踏まえた準備が必要になります。学生には、おしゃれは自分のため、身だしなみは相手のために行うものということを実習前からお知らせしておくことが必要になります(足立、堀井)

 また自宅で椅子やソファで生活している若者は正座の経験も少ないため「正座ができません」という学生も見受けられます。そのような情報もあらかじめ聞いておき、さりげなく利用者にお断りするという配慮も必要となります。

学生の支えになりましょう

 とくに実習初日の学生はとても緊張しています。緊張のあまり体調を崩したり、躊躇する、タイミングが分からない、最初の一言が出ないなど、“一歩踏み出せない状況“になりがちです。朝の実習開始時の挨拶が実習全体の関係性に影響することもあるため、学生を温かく向かい入れ、管理者やスタッフへの挨拶の機会を設け導くよう配慮しましょう。
学生の行動を待つことも重要ですが、こちらから一緒にケアをしようと声をかけ、ともに行動することで、短時間でも達成感を持つことが出来るようになるでしょう。
また『利用者にはあなたが同行することを説明し了解を頂いていますよ』と伝え、学生が安心して訪問できるようにしましょう。

学生に声をかけてみましょう

  • おはようございます。よろしくね。待っていましたよ。
  • 緊張しますね。いつも一緒に行動するので大丈夫ですよ
  • 挨拶はタイミングが大事なので、私が紹介した後に続いて行ってくださいね
  • 訪問看護は、居宅というプライベートな空間にお邪魔して看護を提供するという特徴があります
  • 居宅にお邪魔するにあたり、どんなことが心配ですか

学生と一緒に確認しましょう

学生の指導の際使用してみてください。学生に読んでもらうことでもよいでしょう。

挨拶をしましょう

  • 利用者宅では指導者とともに元気に挨拶・自己紹介をしましょう。
  • 第一印象が大事です。
  • 療養者や家族の目線で服装・身だしなみ、言葉遣いについて考えてみましょう。
  • 年長者であることを忘れずに接しましょう。
  • 「です」「ます」の丁寧語を使いましょう。
  • なにか尋ねられたら「はい」と笑顔で返事をしましょう
  • 学生もチームの一員です。
  • 利用者は事業所と契約を交わした大切な顧客です。

身だしなみを確認しましょう

  • ユニフォームや靴、靴下は清潔なものを着用しましょう。
  • 髪の色は黒に近い色で、髪の乱れがないようにまとめましょう。
  • 薄化粧で、香水や強い香りの芳香剤などにも注意しましょう。
  • 爪は短く切り、マニキュア、ペディキュアはしないようにしましょう。
  • ピアス、ネックレス、指輪ははずしましょう。
  • カラーコンタクトは使用しないようにしましょう。
  • 下着は透けない色、靴下は白を着用しましょう。

訪問マナーはなぜ必要なのでしょう

その1 第1印象をよくするため
利用者やその家族とよい人間関係を作るためには第一印象が大切です。
初頭効果・・・最初にいい印象をもてばそう簡単に悪い印象に変化しないという効果
そのためにも初対面の挨拶、身だしなみ、言葉遣いなどのマナーは重要です。
その2 清潔感、安心感を与えるため
闘病生活を送っている人や高齢者は、化粧がきつい、髪色が派手だったりするとよくないイメージを持ったり、安心して相談することが出来ない傾向にあるそうです。
その3 年長者として尊重した態度でかかわるため
年長者、高齢者と接するときの言葉遣いの基本は「です」「ます」の丁寧語を使うことや、「はい」と気持ちよく返事ができることです。学生は同世代との関係性を作ることには慣れていますが、初めての環境で、とくに知らない人、ましてや自分とは違う世代の年長者とのかかわりは少ないので、戸惑う可能性があります。また、友達言葉や態度が信頼関係であると誤解する傾向もありますので、それらに気づくことも重要な事です。
その4 学生もチームの一員であるため
短時間であっても、訪問看護師と同行し、看護ケアを行う学生もチームの一員として見られます。事業所と契約を交わした顧客である利用者ですから、信頼を損なわない振る舞いをすることが求められます。

玄関先でのマナー

  • はじめにコートなどの上着を脱いでおきます
  • 上着は外側を内にして折り、利き手とは反対の腕にかけてもちます
  • 玄関では、呼び鈴を鳴らし、返事があってから玄関の扉を開けます
  • 明るい声で、笑顔で挨拶をします
  • 玄関で靴を脱ぐときは正面を向いて上がりひざまずいて靴の向きを変えて靴をそろえます
  • 靴の置き場所にも上座と下座があり、靴箱の横が下座にあたります
  • 靴箱がなければ出口にもっとも近い場所が下座、靴箱の横か出口に近い側にそろえます
  • スリッパは勧められたら履きます
  • 持参のスリッパは了解をいただいて履きます
  • 居室に入るときも、正面を向いて上がり、向きを変えてスリッパをそろえます

学生のこんなところをみてみましょう

  • 挨拶ができましたか
  • 丁寧な言葉で話すことを心がけていましたか
  • 自分自身の身だしなみを確認できましたか

訪問マナーについての指導をしてみましたか

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実習指導お疲れさまです!学生は利用者のための訪問マナーについて指導をうけ、一緒に実施できたことでモティベーションが上がったと思いますよ!

学生への説明や同行訪問は時間に追われ大変ですね。学生はみなさんの訪問マナーをみたことで多くのことを学んだと思いますよ

<参考>

場面2:利用者・家族との会話が続かない学生への指導

学生にとってのコミュニケーションとは

 学生は実習においてコミュニケーションがとれるか不安や緊張を抱えています。実習で大切なことは、コミュニケーションだけではなく、学生が訪問看護に関心を持ち、在宅における看護の役割や知識・技術・態度を学ぶことです。在宅だからこそ必要なコミュニケーションについて、指導する側も理解し整理しておく必要があります。
 また、社会生活の乏しい学生にとって、初対面の高齢者との目的達成のための円滑なコミュニケーションができるとは限らないため、訪問看護師が会話の橋渡しをすることや、モデルになるなどのサポートを積極的に行うことが必要です。

在宅看護におけるコミュニケーション

 訪問看護師は利用者・家族と出会った瞬間から、表情や態度、会話などを通して相手を理解しようと努めています。
また、在宅では利用者の現状を把握したうえで利用者・家族の意向を確認、ケアの方法や必要な物などについて説明し、同意をいただいたうえでケアが展開されます。そのため訪問看護師にはわかりやすく伝え、意見や希望を遠慮なく話すことのできるような雰囲気づくり、利用者・家族の思いを引き出すコミュニケーションが求められます。(秋山、小倉:2017)

 また利用者・家族にはこれまで生活を営んできた歴史があります。
訪問看護には利用者・家族の生活習慣や価値観をできる限り理解したうえで、その方の希望を尊重したケアを実施することも求められます。もし看護者の価値観だけで進めようとすればコミュニケーションはもちろんのこと、訪問さえも拒まれる可能性があります。

学生のコミュニケーション能力の傾向

 看護学生と同世代の若者は、自分の感情や気持ちを言語化すること、同世代以外の人とのコミュニケ-ションが苦手だといわれています。短時間の実習ではありますが朝の挨拶、オリエンテーション、移動中などに学生のコミュニケーション能力を確認してみましょう。そしてこの実習でどのようなコミュニケーションをしてみたいのかを聞いてみましょう。
 学生の希望を確認し、学生の主体性を尊重しつつも、必要時はサポートし、学生自身が利用者・家族と会話ができた、コミュニケーションの方法が分かったというような成功体験を持てるよう支援しましょう。

学生に声をかけてみましょう

  • 学生を笑顔で迎えましょう
  • 仕事中であっても手を止めて、顔をみて対応しましょう
  • 自信がない時や、会話に困ったときは、私が間に入りますので安心してくださいね
  • 会話のきっかけは、利用者・家族の意向に沿ってケアの内容を決めるところから始まりますよ
  • ケアの方法や順番について利用者・家族の意向を確認することも相互関係を深めますよ
  • 学生がうまく話せるきっかけを作りますので会話の準備や練習をしましょうか
  • 私の利用者・家族とのコミュニケーションをみて、あとで意見や感想を聞かせてくださいね

学生のコミュニケーション能力を確認してみましょう

  • 高齢者と話をしたことはありますか
  • コミュニケーションではどのようなことが心配ですか

※学生の表情は?目は合わせられますか?固まっていませんか?
※丁寧な話し方ですか?声の大きさ・トーンは?語尾は聞き取れますか?

学生の希望を聞いてみましょう

  • 利用者・家族に聞いてみたいことはありますか
  • どんな会話をしたいですか
  • なにか会話したいことを考えていますか

学生のこんなところをみてみましょう

  • 利用者・家族との会話に参加することが出来ましたか
  • 利用者・家族情報収集ができましたか
  • 利用者の意思や意思決定について理解できましたか

会話が続かない学生への指導をしてみましたか

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訪問看護師の指導により利用者や家族と会話ができた学生はコミュニケーションに意欲的になったことでしょうね。会話の橋渡しお疲れさまでした。

学生は訪問看護師の利用者・家族との会話から多くのことを学んだと思いますよ。

<参考>
  • 秋山正子、小倉朗子他:系統看護学講座 在宅看護【医学書院2017、175-177】
  • 足立はるゑ、堀井直子:臨地実習指導サポートブック【メディカ出版2013、p52-55】

場面3:利用者宅で生活様式の違いを感じる場面での指導

学生の育った居住環境

 現代社会では生活が便利になり、人とのかかわりを通した経験や生活体験が不足していると言われています。現場の訪問看護師からは、学生は「挨拶ができない」「正座ができない」「居室で体育すわりをしていた」「雨の日に濡れた足を気にしないで上がってくる」など、多くの体験から「学生のマナーが出来ていない」と感じ、困惑している現状が見受けられます。

 また高齢者は、介護保険開始後はベッドのレンタルや購入をしますが、住まいは畳に布団、置き型の風呂などの和式のことが多いのですが、学生の住まいはフローリングにソファ、ベッド、埋め込み型ユニットバスなどが多い現状があります。また一人暮らしの学生も多いことから、例えば湯船に入らずにシャワー、食事はコンビニや外食などで済ませていることもあります。学生は自分とは異なる高齢者の生活様式をすぐに理解することは難しく、高齢者の規則正しい生活や信念を持っていることを「頑固」であるととらえる場合もあります。

利用者の生活に密着した看護

 在宅看護実習では’生活’に密着した看護実践を学ぶことが重要であり、学生が自分の生活と高齢者の生活の違いを感じたときが絶好のチャンスです。居宅でどのようにして医療や看護、療養生活の継続を可能にしているのかなどが理解できるよう意図的に関わりましょう。具体的には、学生が高齢者の営む生活環境について感じたこと、病院と異なること、居宅でどのようにして医療や看護、療養生活の継続を可能にしているのかなど、感じたことを率直に話せる雰囲気づくりを大切しましょう。また、学生が高齢者の生活様式に反する行動や言動をした場合やその可能性がある場合は、さりげなく仲介しトラブルを回避できるようにしましょう。(秋山、小倉)また、脱水や皮膚の乾燥・喀痰の詰まり予防のため、とくに暖房や冷房を使用している場合の室温や湿度の確認は重要なことも伝えましょう。

利用者の生活環境について学生に説明してみましょう

和室
置き型の深い風呂
洗面所
  • 高齢者の家と皆さんの住まいは、どのような点が違いますか。
  • 畳の生活で、膝など足腰の弱い人は低い椅子を置いて座卓につかまって立ち上がります
  • 大きな窓は掃き出し窓といい、ほうきで掃除がしやすく、外を眺め季節の移ろいを感じられます
  • 座椅子は家人がくつろぐために使用します(客人は座らない)
  • 床の間は上座、出入り口に近いところが下座です
  • 敷居や畳の縁は踏んではいけません
  • ふすまや障子は両手で静かに開け閉めします
  • 長い時間座っていることに不安はありますか
  • 風呂場や洗面所などをお借りするときは必ず了承をいただきます
  • 室温に気を付けます
  • ケアのあとは元通りに片づけ風通しをよくします
  • 利用者がこの家で生活を営んでいることを尊重し、できる限り生活に合わせたケアを行います
  • 居室内には個人情報がたくさんありますので、興味本位でみることのないようにしましょう

学生のこんなところをみてみましょう

  • 高齢者の居住環境に関心を示していましたか
  • 高齢者の生活に関心を示していましたか
  • 高齢者の生活を尊重する言葉や態度がみられましたか

生活様式の違いについて指導をしてみましたか

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利用者が住み慣れた家で療養生活を送る意味が学生に伝わったと思いますよ。

学生は訪問看護師が利用者の家の状況に合わせて行う看護をみて学ぶことができたと思います。

<参考>
  • 箕浦とき子・高橋恵:看護職としての社会人基礎力の育て方【日本看護協会出版会2018、P3】
  • 秋山正子、小倉朗子他:系統看護学講座 在宅看護【医学書院2017、p410-412】

場面4:「いまどきの若者」への指導

現代若者の特徴と接し方

 1990年代以降の家庭における子供・親・兄弟・祖父母・近隣の人との触れ合う機会の不足という環境の変化、パソコンやスマートフォンをはじめとしたITの進展により大きく変化しました。家庭や地域社会での教育の機会が減り、人間関係の希薄さが当たり前の環境において現代若者は育成されてきました。(経済産業省:2017

 学生には、注意されたくない、注意されまいとして弁解や先走りをするという防衛的な態度や、頑張らなくても合格できればいいという態度をとるものがいます。このような態度の背景には、青年期のアイデンティティの確立が不十分であること、学習不足であることへの対処行動、学習意欲がわかないこと、自己教育力が育っていないことなどがあるようです。看護職は健康障害のある人と関わる仕事です。医療従事者としての使命や、看護の魅力を伝えながら、学生とのコミュニケーションを密にすることで、学習の楽しさが経験できるようにしましょう。

「振り返り」で看護の意味づけをしませんか

 看護の振り返り(リフレクション)をする方法として「教材化」があります。経験型学習(安酸)によると、教材化は、学生が患者とのかかわりにおいて、自分が体験したことを振り返り、それを言語化する中で自分なりに看護の意味付けをする反省的経験までを含めるものです。指導者は学生の経験の中にどのような看護的意味や価値があるかを瞬時に見極める能力が必要で、具体的には学生が訪問看護において重要な意味を持つ場面に遭遇した際に「さっきの場面どう思いましたか?」と学生に声をかけ、学生が主体的に考えられる振り返りの場をもつことです。このような学生とのかかわりが看護の中でどのような意味をもち課題は何かを考えるきっかけになることでしょう。

 また「打たれ弱い」「指示待ち」「受け身」「諦めがはやい」といった傾向のある世代といわれる学生には、仲間とともに、主体的に考え、協力して課題を解決する経験をするために、カンファレンスを活用することで、情報を共有したり問題解決をすることが期待できます。⇒ 場面9へ 

振り返りをしてみましょう

 皆さんは看護実践をしているときに、訪問看護師として重要!実習目標の達成につながる!と思う場面はありませんか。利用者や家族がいるときに説明するのは失礼ですし、その場で話しながら看護ケアを行うのは指導者にとって大きな負担になりますね。そのようなときには「振り返り」をしてみましょう。
「どんな場面が印象に残っていますか?」「さっきのあの場面、どう思いましたか?」この言葉をかけることで、学生に看護の意味を考える時間を作ることに繋がりますよ。

学生のこんなところをみてみましょう

  • 学生は自分の経験をもとに感じたことを話すことができましたか
  • 学生は看護実践の意味を考えることができたようですか

「振り返り」の指導をしてみましたか

現代若者の特徴について理解し受け止め、振り返りをすることで、いまこのときに大切にしてほしい「看護」を伝えてみましょう。

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学生の経験したことをもとに振りかえることが大切ですよね。

学生は訪問看護師とともにさまざまな経験をすることで多くの学びを得ていると思いますよ。

場面5:実習指導に対する負担感への対処

通常業務に並行して行うという在宅看護実習指導の現状

 在宅看護実習における指導は、訪問看護に学生を同行させ、通常の看護ケアに並行して行います。学生の受け入れにあたり、受け入れ準備、利用者やスタッフとの調整、同行訪問など、通常の看護業務に上乗せして行ううえ、短時間で多くのことを説明するなど、訪問看護師のみなさまは多くの負担を抱えていることと思います。
 ここでは学生受け入れのための準備やスケジュールを紹介します。各事業所で必要な物を選択しチェックリストとしてご活用ください。
 あらかじめスケジュール準備しておくことで、いくらかでも負担の軽減になればと思います。

実習受け入れの準備をしましょう

 学生の実習を受け入れるにあたりそれぞれの教育機関や学生個々の実習目的・実習目標・実習内容を把握しましょう。これは各教育機関との打ち合わせにおいて示されますので、実習指導者としての役割や実習内容とともに把握できるといいでしょう。

感染予防対策と実習受入れ

 昨今の新型コロナウイルス感染症の感染拡大において、看護学生の実習受け入れの判断や対策は事業所において大きな課題であると推察します。実習受け入れの際はその時点での厚生労働省からの通達を確認しましょう。事業所における感染予防対策や、実習受け入れ基準など、事業所としてどうするかについても「案」を掲載してみましたので、話し合いのきっかけになればと思います。

コロナ禍における看護学生の実習の現状

 看護学生の臨地実習は、知識・技術を看護実践の場面で適用し、看護の理論と実践を結び付けて理解する力を養う場として重要です。とくに訪問看護では同行訪問により、学生は利用者とのコミュニケーションや看護技術、利用者の居宅での生活の営みや家族との関係性などを体感することで、地域ケアシステムや在宅における看護の役割、病院における看護の在り方についても理解するなど、机上では到底習得できない多くの学び・気づきを得ることができます。これまで在宅看護実習を経験した学生からは「いつか訪問看護をしたいと思った」という声が聞かれることも多いことから、学生には未来の訪問看護実践者としての活躍、人材確保・育成上も期待できる頼もしい存在ともいえそうです。
 しかしながら今般のCOVIT19の感染拡大により多くの臨地実習が見合わせになり多くの学生はオンライン学習や学内演習により実習をしている場合が多く、今後も長期化する見通しが想定されています。

実習受け入れに関する動き

 厚生労働省は各都道府県に対し「新型コロナウイルス感染症の発生に伴う臨地実習の取り扱い」について、各地域の実状に応じて実習再会に向けた指導及び実習中止に伴う対応について通達しています。
その中で、実習施設において学生受け入れが可能となった場合、必要な感染予防策を講じたうえで、可能な限り臨地での実習を実施することとしていますが、実習受入れに関する具体的な判断基準は示されていないようです。

事業所として実習受け入れをどうするか

 文部科学省は、大学や高等専門学校に対し、学内における感染対策の徹底と学生の学修機会の確保や学生の修学の継続にも十分に配慮し、地域の感染状況や自治体の要請内容を踏まえた対応を柔軟に検討することを周知しています。(文部科学省 2021)
 さらに、「厚生労働省:大学等における新型コロナウイルス感染症対策の徹底と学生の学修機会の確保について(周知)」でも、大学等における教育は、豊かな人間性を涵養する上で、直接の対面による学生同士や学生と教職員の間の人的な交流等も重要な要素であることから、学生の学修機会の確保に留意することが周知されています。看護学生にとって、臨地実習は重要な位置づけにありますが、新型コロナウイルス感染症により、約8割の教育機関で学内実習やオンライン実習を余儀なくされています。

2021年度の臨地実習では、初めての実習で訪問看護ステーションに来る学生もいることが予測され、感染予防対策と、学生の学びの支援を両立するという、今までにない準備に追われていること思います。
(文科省:新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を踏まえた大学等における新型コロナウイルス感染症への対応に関する留意事項について
 このような状況から、新型コロナウイルス感染拡大下における実習受け入れにあたり必要となるのはどのような事でしょうか。たとえば地域における感染症発生状況、近隣での発生数やクラスターの発生状況により学生受け入れの可否、学生受け入れ人数、受け入れ日数や時間を検討するなど、事業所の実習受入れ基準を明確にしておくことなどが必要ではないでしょうか。また、利用者からの同意が得られないときには、事業所内での実習内容を工夫するなど各教育機関と連携しながら柔軟な対応ができる可能性があります。

 実習受け入れの際、学生のマスクやフェイスシールドの着用、手洗い、速乾性手指消毒剤の使用、使い捨て手袋の使用、三密を避けるなど標準的な感染予防対策の徹底や、学生の体調チェック、感染者・濃厚接触者との接触の有無の確認を行うなどの感染予防対策の徹底も必要であると考えます。これらは教育機関においても学生に指導・確認したうえで実習に臨ませていますので、その内容を確認しましょう。また、事業所としても、職員・利用者・家族の感染予防対策として準備する必要があります。
ごく標準的なものですが、感染予防対策の例と学生の健康チェック表を作成しました。地域の発生状況により馴染まない点もあると思いますが、必要時ご活用ください。また、利用者には感染予防対策をとったうえでの同行について説明し同意を得て記録に残しておくことも重要です。

実習受入れスケジュール

学生受け入れのための準備やスケジュールの例を以下に紹介します。
各事業所で必要な物を選択しチェックリストとしてご活用ください。

実習受入れ準備をしてみましたか

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実習の準備をすることより負担が軽減できたのではないでしょうか。

通常業務に加え、実習指導ありがとうございます。

場面6:顧客である利用者の負担に配慮した実習指導方法

生活の場における看護を伝える

 訪問看護は利用者の生活をする住まいである居宅に「お邪魔」して看護ケアを実施します。その際、「人様の家にお邪魔する」ことは病院のように訪室するとは意味合いが異なります。しかしながら学生は昔のように親戚や友人など他人の家に訪問し受け入れてもらう機会が少なくなっているため気が付かずに「失礼にあたる」行動をしてしまうことがあるため「新たな体験」として丁寧に説明する必要があります。
 また、実習のため利用者宅に学生を同行させる場合はあらかじめ説明し同意をいただき、負担をかけないよう配慮することが重要となります。

利用者は生活者であり顧客であることを伝える

 利用者は事業所と契約をした顧客であり、訪問時間によるサービス利用料、医療機器等の管理や緊急時の対応には追加の管理料をいただきます。看護は契約に基づくサービスとして位置づけられ、医師の指示のもと安全な実施はもちろんのこと、ケアの成果、現状の説明、必要に応じて報告や連携などを行うことで利用者満足度の維持・向上が求められます。
 また、訪問看護師が利用者個々の居宅の構造や注意点・価値観・生活時間の特徴や注意点、提供している看護について学生に語ることで、生活者として家で暮らす人々への看護についてイメージしやすくなります。

利用者が生活を営む自宅で看護を行う際に大切なこと

  • 利用者は顧客であり事業所と契約をして看護を行い料金をいただく「お客様」です。
  • 利用者満足度を最優先にします。
  • 利用者本人の意思や意向を確認します。
  • 利用者の意思は変化するものです。変化のプロセスを確認していきます。
  • 主治医の指示書に基づき看護を提供します。
  • 介護サービスや医療保険のサービスの利用状況を把握し多職種で連携します。
  • 家の構造・設備:入っていい場所・使っていいものを確認し約束を守ります。
    *お湯、タオル、洗面所、ティッシュペーパー、おむつの使用許可など。
  • 衛生上の注意点:不衛生な療養環境、動物、害虫等への対処など必要な場合もあります。
  • 家族構成と家族の意向:訪問時にいる家族、協力者、キーパーソンとそれぞれの意向。
  • 家族もケアの対象です。ストレスを抱えていないか、虐待などの実態・徴候も念頭に置きます。
  • 利用者の価値観への配慮:大切にしているもの、触れてはならないことに配慮します。
    *貴重品の管理をお願いします。
    *サービス利用料集金の方法、茶菓の提供への対応、ペットや小児の同室がある場合の対応など。

※看護の対象者である利用者・家族は顧客であること、利用者満足度の維持・向上が望まれることを学生に伝え、病院との違いや訪問看護で大切にしたいことなど、訪問看護の魅力について話し合ってみましょう。

学生のこんなところをみてみましょう

  • 利用者は事業所と契約を結んだ顧客であることを理解できたようですか
  • 利用者満足度について理解できたようですか
  • 家族もケアの対象者であることを理解できたようですか
  • 顧客である利用者・家族への負担に配慮する態度が取れていましたか。

顧客である利用者の負担に配慮した指導をしてみましたか

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顧客である利用者の負担に配慮することは、病院実習では学べないことですね。
実習指導お疲れさまでした。

訪問看護師の利用者とのかかわりをみることで、顧客として大切にしていることが伝わりましたよ。
いつか学生が訪問看護という仕事を選んでくれるといいですね。毎日の実習指導お疲れ様です。

場面7:学校での学習状況が不明確なときの指導

現在のカリキュラムにおける在宅看護の位置付け

 臨地実習は保健師助産師看護師法で定められています。
保健師助産師看護師法に示された教育内容を満たすことで国家試験の受験資格を与えられるため、臨地実習指導者は各教育機関の臨地実習要項に準じ目標達成をめざし教育をする責任があるのです。

臨地実習教育の目的

  • 看護に関する関心と意欲を高める
  • 関わりを通して対象を理解することを学ぶ
  • 看護の専門的思考過程としての看護過程を展開する経験を持つ
  • 学生自身の看護観を形成する

※実習でしか体験できない具体的・個別的な経験を学内で 学んだ知識・技術・態度と結びつけ、看護活動が展開できるようにする

看護基礎教育カリキュラムの変遷と科目構成

【看護師3年課程教育内容の変遷】
  • 実習時間の減少と専門分野の時間の増加
    ⇒臨地では少ない実習時間で専門知識に基づいた指導が求められます。

    [厚生労働省:看護師3年課程教育内容の変遷

  • 現在の科目の構成は、学年が上がるに伴い積み上げ式の構造で、「在宅看護論」は5領域の専門分野の学びを統合した統合分野に位置づけられています。

    [厚生労働省:保健師助産師看護師学校養成所指定規則

学生が在宅看護論として教育機関で学ぶこと

【看護師3年課程教育内容の変遷】

 在宅看護論は、看護基礎教育において「統合分野」に位置付けられ、講義演習4単位、臨地実習2単位を義務付けられています。[留意点]は以下の通りです。

  • 在宅看護論では地域で生活しながら療養する人々とその家族を理解し地域での看護の基礎を学ぶ内容とする。
  • 地域で提供する看護を理解し、基礎的な技術を身につけ、他職種と協働する中での看護の役割を理解する内容とする。
  • 地域での終末期看護に関する内容も含むものとする。

 また、2020年に開始予定の新カリキュラムでは、在宅看護論は、生活者に対する看護という視点から全ての領域の根本にあたると考えられ、教育の初期段階から学ぶ重要性が改めて確認されたことから基礎看護学の次に位置づけた。また、療養者を含めた地域で暮らす人々を対象と捉える趣旨を明確にするため、名称を「地域・在宅看護論」に変更し、対象者及び対象者の療養の場の拡大を踏まえ、3年課程は現行の4単位から2単位増の6単位、2年課程は現行の3単位から2単位増の5単位となる予定(厚生労働省:第9回看護基礎教育検討会です。

看護師国家試験の出題基準(在宅看護論)

*国家試験に出題される内容です

学生への講義内容、教科書などを共有したいことを相談してみてはいかがでしょう。
それにより学生がいま学校で受けている教育がわかるとともに、教員と実習指導者の役割分担の共有の場にもなるのではないでしょうか。

学生の使用している教科書には看護実践の根拠が記載されているので、現場で働く看護師の学び直しにも役立ちますよ。

場面8:学生の希望に合った実習内容の設定ができないときは

学生の希望をもとに充実した学びを達成するためにできること

 在宅看護実習における学生の見学・体験希望では生活を支える援助の清潔・排泄・食事・移動動作の体験を希望する傾向(吉田、2012)があるようです。実習前に学生の希望や実習目標を確認し可能な限り達成できるようにしたいところですが、学生の実習日に合わない、希望に合う利用者がいないなど現実はうまくいかないことも多いことでしょう。

資料を準備しましょう

 学生は教科書や授業で学んだ知識をもとに自己の希望や実習目標を設定することが推察されますので、学生の希望だけではなく病院で受け持つ頻度の少ない疾患や医療依存度の高い利用者の看護、在宅看護で学んでほしいことについて日頃から資料などにまとめたり、訪問看護に関する専門書を準備し、説明・指導できるようにしておくことも一案です。これにより学生の学びや指導内容の差が少なくなります。

資料つかって説明をしてみましょう

できる限り学生の希望する実習内容を設定できることは望ましいですが、資料やイラストなどを使って具体的な看護やエピソードを交えて説明することで、学生が実際の場面を想起し理解できるようサポートすることが重要です。

学生の希望に合った実習内容の設定をしてみましたか

あてはまるものを選択してください。




実際の訪問や資料などを使うことで学生の希望に合わせた実習となりよかったです。

居宅への移動中に口頭で説明することも立派な指導ですよ。
短い実習時間で実際の場面を設定することは難しいです。
学生は訪問看護師の皆さんから説明を受けたことでも十分理解が深まったと思いますよ。
毎日の実習指導お疲れ様です。

<参考>
  • 吉田陽子、飯田加奈恵:在宅看護技術習得に関する一考察【杏林大学研究報告(教養部門)2012;29:21-28】

場面9:訪問看護についての指導が伝わらないときは

訪問看護師の実習指導者としての役割

 これまでの研究結果で、実習受け入れ施設の訪問看護師の約9割が実習指導に従事していることが明らかになっています。このことから実習指導者をはじめ、ほとんどの訪問看護師が「同行訪問」により直接的なケアと並行して実習指導を行っている現状が推察されます。このことから実習指導者には、事業所内や利用者と実習受け入れに関する調整や働きかけをする一方で、実習目標の達成を念頭に置いた看護実践について指導することも求められています。

 しかし指導をしても学生から思うような反応が返ってこない、記録に指導が反映されないというような状況が重なれば、はたして自分の指導がうまく伝わっているのだろうか?という不安を感じることもあるのではないでしょうか。このようなときは学生同士によるカンファレンスを活用することで、学生がどのように指導を受け止め、どのような学びを得たのかを知ることができます。また、意図した内容がうまく伝わっていないと感じた時には、追加の説明や発問をすることで補足することも可能です。

【発問とは】
発問の要件
  • 何を問うているのかがはっきりしていること
  • 簡潔に問うこと
  • 平易な言葉で問うこと
  • 主要な発問は、準備段階で「決定稿」にしておくこと
「質問」か「発問」か
簡略な定義
  • 「質問」は子供が本文を見ればわかるもの
  • 「発問」は子供の思考・認識過程を経るもの

カンファレンスの活用方法

 臨地実習における学生カンファレンスには日々のカンファレンス、中間カンファレンス、最終カンファレンスなどがあります。学生カンファレンスは、グループダイナミクスを活用し、問題を解決するため、情報を共有するためなどに行います。
日々のカンファレンスでは個別指導を受けた内容や実習で感じたこと・学びなどを共有するため、中間・最終カンファレンスは、テーマを持ち学生主体で行うことが多いのではないでしょうか。

 学生の希望するカンファレンステーマで行うまたは指導者としてぜひ学んでほしい内容をテーマとして行うなどカンファレンスを行う目的を明確にしましょう。
またカンファレンステーマ学生や参加できるスタッフと相談したうえで決定し、指導者から一方的に情報を伝えるだけで終わるのではなく、学生が協力して問題解決をしたり情報を共有するためにヒントを出しながらサポートしていくことが望ましいと言われています。また発言が苦手な学生はカンファレンスが苦手であることが予想できます。沈黙や発表だけでおわらないよう話しやすい雰囲気を作ったり、フォローに回るというサポートも重要です。

カンファレンスのときに意図的な質問をしてみましょう。

学習を発展させる質問の7つのポイントを紹介します。

  1. 学生の気づかない点を質問し気づいてもらう。
  2. 具体的な事実やデータで考えてもらう。
  3. 原因と結果を考えてもらう。
  4. 関連を考えられるような質問をする。
  5. 比較できるような質問をする。
  6. 反対のことを言ってどう考えるか聞いてみる。
  7. 答えられそうな学生に聞いてみる。

学生のこんなところをみてみましょう

  • 学生主体のカンファレンスができましたか
  • 指導者として意図したことを学生は学ぶことができましたか

学生の希望に合った実習内容の設定をしてみましたか

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意図的に指導したことは、きっと学生に伝わっていると思いますよ。実習指導お疲れ様でした。

学生の学びを確認することは簡単ではないですよね。

<参考>

場面10:限られた訪問時間内での指導が難しいと感じたときは

ここで学んでほしいことは何ですか

 指導案の作成は難しく感じるかもしれませんが、まずはじめに「この事業所で学べることは何か」「どんなことを学生に伝えられるか」を考えてみましょう。
本プログラムでは短時間でも作成できるように【訪問看護実習指導スケジュール案】としました。

指導案とはなにか:簡単な指導案を作ってみましょう

  • 指導案とは指導者が実習指導をする際に実習目標を達成するために立案するもの。
  • 臨地実習を効果的・効率的に展開するために事前に実習過程を予測し学生がいつ何を学ぶかを検討しながら立案する。学校側の実習目標をもとに作成する。

指導案作成のプロセス

  • 対象(患者)を選定する
  • 実習科目名・実習段階・実習期間・単位・実習目的・目標を確認する
  • 実習の考察:学習者観・教材観・指導観の3観から考察する
  • 指導目標を設定する
  • 指導計画:週案・日案を作成する
  • 評価

【訪問看護実習指導スケジュール案】を作成しましょう

「訪問看護実習指導スケジュール案」を作成してみましたか

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指導案を持つことで、指導内容が意図的・具体的になり、評価もしやすくなり、指導の差も少なくなりますよ。

指導案の作成はハードルが高いと思いますが、簡単なものでもそろえておくことで実習指導が楽しくなりますよ。

<参考>
  • 佐藤みつ子・宇佐美千恵子・青木康子:看護教育における授業設計第3版【医学書院、2006、p96-124】

場面11:訪問看護に意欲が見られない学生への指導

若者の職業選択の視点

 内閣府では2017年、16歳から29歳までの若者を対象に「就労等に関する若者の意識調査」を行っています。若者が仕事を選択する際に重要と考える観点について、「安定していて長く続けられること」及び「収入が多いこと」に「重要」または「まあ重要」と回答した者はともに88.7%でした。

 看護師という職業は、比較的収入がよく、安定していて長く続けられる職業です。そういった理由で本人が看護系の教育機関に選択することも多いことが推察され、親や先生にすすめられたから、第一希望がかなわなかったから、という志望理由も多く聞かれる現状があり、もともと看護や訪問看護に深い関心がなく、ただ実習を終えたいと思っている学生も一定数は存在するのではないかと考えます。

学生は本当に意欲がないのか

 学生にとって訪問看護は、学校でも病院でもない実習場所で、初めて出会った訪問看護師と利用者の住まいに出向き看護を提供します。居宅における利用者に合わせた看護ケアは学生にとってはかなり「特殊なやりかた」で驚きの連続であることも推察できます。看護師の邪魔にならないようにしなくては、自分にはできないケアだ、利用者は初めて会う自分に見られるのは迷惑なのではないか・・・そういう思い込みで手を後ろに組んで距離をとるという状況にさせているのかもしれません。

 しかしながら「意欲が見られない学生」ですが、意欲がないとは限りません。このような学生は、相手の立場や気持ちを察することができることが強みですが、同時に感情や考えを表出し相手に伝えること、気をまわしすぎず看護学生として学ぶ立場であることを自覚し行動するという課題があります。
学生に声をかけ、話をしてみる…短い時間だからこそ、指導者としてできることは学生に声をかけ理解することではないでしょうか。

学生に「個別」に声をかけてみましょう。

「今日の訪問はどうでしたか」
「訪問看護の印象はどうですか」
「病院で行っている看護と比べて訪問看護はどうですか」
「〇〇〇をしていた時、どんなふうに思いましたか」

学生に話しかけ、理解しようと努めましたか

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学生は個別に声をかけてもらい、理解的に関わってもらえてうれしかったと思いますよ。

学生は同行訪問で関心をもったこともきっとあると思いますよ。
短い時間での実習は大変ですね。
毎日の実習指導お疲れ様です。

<参考>

場面12:自分の指導方法への不安を感じたときは

実習指導を行ううえで大切にしていることはありますか

 実習指導をしているときに、みなさんはどのようなことに心がけていますか?大切にしていることはありますか?
実習指導者講習会を受講した方もいると思いますが、過去に自分自身が指導を受けたように…先輩の指導を参考に…経験を活用して看護実践を伝えている方も多いかと思います。学生にとって、みなさんの言葉や看護を見ること自体が学びになることは間違いありません。訪問看護師を対象とした実習指導に関する調査では、「自分の感性で教えているがこれでいいのか不安」「助言するような指導方法でいいのだろうかと不安」「実習指導方法がわからなくて苦痛」「見よう見まねで指導している」など自分の指導方法への不安や自信のなさがある結果が明らかになりました。ここでは実習指導に「自己効力理論」を活用し、学生の自己効力感を高める指導方法について紹介します。実習指導をする際に、なにか一つ「大切にしていること」をもつことは強みになり、不安を軽減させることにもつながることと思います。

学生の自己効力感を高める指導

自己効力理論とは

 自己効力理論はアルバート・バンデューラA.Bandura(1947年)により提唱された概念で、ある状況において望ましい目標に到達できるかどうかについての個人の信念、言い換えれば、ある物事を達成できるだろうと思い、そのために必要とする行動をとることができるという信念です。つまり、自己効力感を高めることができれば「自分には成し遂げることが可能だ」という自信を持ち、行動がとれるといわれているのです。

学生の自己効力感を高めるには

 学生の実習への自己効力感については、学生が「自分は実習目標を達成できるだろうと思い、そのための行動もとれると確信する」と実習を遂行していく自己効力感を高めることができれば、実習に対する学習意欲が高まると考えられています(安酸、2015)
 バンデユーラはによると、自己効力感は4つの情報源から生み出され影響するとされています。つまり4つの情報源を、実習指導を行う際に効果的に活用することで、自己効力感を高める可能性が期待できるのです。

4つの情報源を活用し自己効力感を高めよう

遂行行動の達成
課題とする行動を最後までやり遂げる成功体験をもつことです。在宅看護実習では学生が実習目標を達成するために、知識を得たり情報を集めるなどして実習に臨んだ結果、実習で期待する結果や成果を得ることです。
代理体験
自分に近い能力・レベルの者の成功や失敗の様子を観察することです。ほかの学生の成功例を見たり聞いたりすることが効果的です。在宅看護実習では、カンファレンスなどで学生同士の経験を語り合うことが有効ではないかと考えます。また、訪問看護師のみなさんの行動をモデルとして見ることや、学生・新人の時の話を聞くことも、自分自身の将来に重ねて想起する意味で効果的であると考えます。
言語的説得
自分の行動や達成を、言葉で賞賛され認められることです。学生自身の行動や言動で「よかったこと」「達成できたこと」を言葉で認められることです。日々のカンファレンスで行動目標を達成できたこと、指導を受けながら達成できたことを見つけ、言語化し、賞賛してみましょう。
生理的・情緒的状態
やり遂げたことによる感動やすがすがしい気持ちになること、情緒的に落ち着いて取り組むことができること。初めての在宅看護実習で学生は緊張しています。きちんと見ていること、サポートをすること、わからないことは聞いていいことなどを伝え安心させること、振り返りにより看護の意味づけをすることで学生はすがすがしい気持ちになるのではないでしょうか。

学生が苦労して得た成功体験を見つけましょう

在宅における実習指導は学生とかかわる時間が短く、スタッフが同行訪問することも多いため、学生理解ができず「何をどう賞賛すればいいのかわからない」と思われるかもしれません。そのようなときには、学生がこの実習にどのような学習して臨んだのか、これまでの学校生活や実習でどのような努力をしてきたのかを聞いてみましょう。そして学生の実習に臨む態度や興味関心が表出されたときには関心を寄せ、賞賛してみましょう。学生はこれまでの努力について賞賛されることで成功体験として認識できるのではないでしょうか。少し苦労をして得た成功体験は自己効力感を高めるといわれています。

情報源 自己効力感を高める情報 自己効力感を下げる情報 方略
遂行行動の達成
(成功体験)
  • 自分で行動し達成できたという成功体験の累積

    ⇒ 最後までやり遂げることにより「できた」という成功体験をもつこと。自分で行動したことによる達成であるため4つの情報源の中でも、もっとも安定している

  • 失敗体験
  • 学習性無力感

    ⇒ (長期にわたってストレスの回避困難な環境に置かれた人や動物は、その状況から逃れようとする努力すら行わなくなるという現象)

  • スモールステップ法

    ⇒ ひとつひとつ階段を上がるように、小さな「できた」という成功体験を積み重ねていく方法

代理体験
(モデリング)
  • 自分と同じ状況の人の成功体験を見聞きすることで、模擬的な達成感をもつ
  • 自分とは異なる状況の人の成功体験を見聞きする
  • 適切なモデルを選ぶ
  • 方法を教える
言語的説得
  • 専門性に優れた人から励まされたり褒められたりする
  • きちんと評価される
  • 言葉や態度で支援され、「信じられている」「認められている」と感じる
  • 課題となっている行動を推奨する文化(社会的雰囲気)がある
  • 自己暗示

    ⇒ (自分で自分を褒める、自分で気持ちを高める)

  • やっていることを認めてもらえない
  • 一方的に叱責される
  • 無関心を示されたり無視されたりする
  • 根拠のない気休めや賞賛、励ましはしない
  • 具体的な行動に対して賞賛・励まし、認めるなどする
生理的・情緒的状態
  • 課題を遂行したときに、生理的・情緒的に良好な反応が起こり、それを自覚する

    ⇒ うれしい、感動、爽快感、高揚感

  • 「できない」という思い込みから解き放たれる
  • 疲労、不安、痛み、緊張、空腹
  • マイナスの思い込み
  • 気づきを認める
  • リラクゼーション
  • ポジティブシンキング

安酸史子、ナーシンググラフィカ成人看護学(3)セルフマネジメント【メディカ出版 2015、p59、表3.3-2をもとに一部改変】

学生のこんなところをみてみましょう

  • 実習に臨むにあたり自己学習を行っていますか
  • これまでの学習や実習など努力して乗り越えてきた経験がありますか
  • ほかの学生と協力していますか
  • 賞賛されたときにうれしそうですか
  • 緊張や疲労はありませんか

学生の自己効力感を高める指導を行ってみましたか

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学生が成功体験を持つこと、何かを遂行した時にうれしいなぁと思えること、自分に近いモデルを通して体験すること、努力を認められることで自己効力感が高まることでしょう。

訪問看護のモデルとなって学生に示してくださったことも大事なことですよ。

<参考>
  • 安酸史子:ナーシンググラフィカ成人看護学(3)セルフマネジメント【メディカ出版 2015、p59】
  • 安酸史子:経験型実習教育-看護師をはぐくむ理論と実践【医学書院 2015、41】

場面13:いまの時代に合わない指導ではと不安に感じたときは

「教える」ことから学生の「学びを支援する」ことにシフトしませんか

 学生の多くは高校を卒業した20歳前後または社会人を経験した成人であることが多いと思います。学生を成熟した思考や学習への姿勢・意欲をもつ成人であると認め、学習者として尊重し、主体的な学びをサポートする姿勢も大切です。また学生たちは学習者主体で行われるアクティブラーニング(課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び)を取り入れた学習指導要領による教育を受けています。

成人の主体的な学びをサポートする方法

 学生が学びたいこと、解決したいことは何かを引き出し、成人として、主体的に学ぶことができるようにサポートしてみましょう。学生は指導者から与えられる説明や指導に加え、学生の実習で得た経験と持ち前の知識を関連させ、実習グループで発表してみることなど有効ではないでしょうか。

アンドラゴジー(Andragogy)とペタゴジー(pedagogy) 

 アンドラゴジー(Andragogy)とは「成人教育学」で、「子どもを教える」教授法であるペタゴジー(pedagogy)と対置して用いられています。成人学習者の特徴として「学習者は自己決定である」「経験が学習の資源となる」「発達課題の移行期が教育の適時期である」「問題解決的な学習を志向する」という特徴があります。学習者の経験をもとに、学習者が必要と感じ、目標を設定し、積極的に取り組むといった、主体的で内発的な動機づけにより学習することを支援していくことが重要と言われています。

いまの時代の看護基礎教育について

学生の主体的な学びを支える声がけをしましょう

  • 興味関心のあることについて、自分なりに勉強をしてみましたか
  • この実習では自分なりの目標がありますか
  • この実習でどのようなことをしたいですか
  • 目標を達成するために手助けをしたいのですが
  • 目標は達成できましたか
  • 未達成のことや課題はありますか

学生のこんなところをみてみましょう

  • 学生は事前学習をしていましたか
  • 学生は自分なりの目的・目標を持っていましたか
  • 学生は自分から質問してきましたか
  • 学生は目標に沿った成果や課題を持っていましたか

学生の主体的な学びを支援するような指導を行ってみましたか

あてはまるものを選択してください。




学生を成人学習者として尊重し、声をかけてくれたことで学生は前向きになれたと思いますよ。

あたたかくサポートしてもらうことで、学生は前向きになれたと思います。

<参考>
イラスト引用元
  • かわいいフリー素材集いらすとや
  • 看護roo 看護師イラスト集